登山では「水をどれくらい持っていけばいいのか」が悩みどころです。多く持ちすぎると荷物が重くなり、少なすぎると脱水のリスクが高まります。体重と行動時間から必要な水分量を計算できる公式があるので、これを知っておけば適切な量を事前に判断できます。
この記事では、登山時の必要水分量の計算方法、補給のタイミング、適した飲み物、季節や標高による調整方法について解説します。

登山で失われる水分量の計算式
鹿屋体育大学の山本正嘉教授が提唱する計算式が、登山者の間で広く知られています。この計算式は以下の通りです。
脱水量(mL)= 体重(kg) × 行動時間(h) × 5(mL)
この脱水量の70〜80%を行動中に補給するのが目安です。
計算例
体重60kgの人が6時間行動する場合を計算してみましょう。
- 脱水量 = 60kg × 6h × 5mL = 1,800mL
- 補給量 = 1,800mL × 0.7〜0.8 = 1,260〜1,440mL
つまり、500mLペットボトル約3本分が行動中に必要な水分量となります。残りの20〜30%は食事中の水分や体内の代謝水でまかなわれると想定されています。目盛りが入った軽量のボトルを1本持っておくと、残量を見ながらペース配分ができます。
環境条件による係数の調整
上記の計算式の「5」という係数は、暑くない時期に軽装で整備された登山道を歩いた場合を想定したものです。以下の条件では係数を引き上げて計算します。
- 真夏の稜線歩き・日差しが強い場合:係数6〜7
- 高温多湿の樹林帯:係数6〜7
- 重い荷物を背負う場合:係数6程度
体重60kgの人が真夏に6時間行動する場合は、60×6×7=2,520mL(脱水量)、補給量は約1,760〜2,020mLとなり、500mLペットボトル4本程度が必要になります。

登山前日からの準備が大切
水分補給は山に入ってから始めるものではなく、前日からの準備がものを言います。前日の夜からしっかり水分をとっておくと、当日のスタート時点で体が潤った状態になり、行動中の脱水リスクを下げられます。逆に寝不足や前夜の飲酒は、体の水分バランスを崩す一因になるため控えめにしておくのが無難です。
当日の朝は、出発の1〜2時間前にコップ1〜2杯の水を飲んでおきましょう。登山口に着いてからも、歩き出す30分前に200〜300mLを補給しておくと、序盤から脱水を防ぎやすくなります。行動前にトイレを済ませておけば、行動中の水分補給を我慢する必要もなくなります。
アルコールには利尿作用があり、飲んだ量以上の水分が体から出ていくとされています。前夜の飲みすぎは翌日の脱水につながりやすいため、登山前日はほどほどにしておきましょう。コーヒーなどカフェイン飲料も同様に控えめが安心です。
登山中の水分補給のタイミング
登山中は「喉が渇いたら飲む」では遅く、喉の渇きを感じた時点ではすでに脱水が始まっているとされています。以下のタイミングを目安にこまめに水分をとることが大切です。
- 出発30分前:コップ1杯(200〜300mL)を飲んでおく
- 行動中の休憩時(約1時間ごと):150〜250mLを少しずつ飲む(500mLペットボトルの1/3〜1/2程度)
- 山頂での休憩:食事と合わせて水分を摂る
- 下山後:失った水分の残りを補給する
1回の補給量は200mL程度までにし、一気飲みを避けることがポイントです。一度に大量に飲んでも体が吸収しきれず、胃に溜まって不快感の原因になります。
登山に適した飲み物
水
もっとも基本的で汎用性が高い選択肢です。料理にも使えるため、テント泊や長時間の行動では水の携行量を多めにするのが一般的です。
スポーツドリンク
発汗で失われるナトリウムやカリウムを同時に補給できます。ただし糖分も含まれるため、水とスポーツドリンクを半々で持っていくのが実用的です。
経口補水液
脱水が心配な場面では頼りになりますが、塩分濃度が高めのため日常的な水分補給には向きません。エマージェンシー用として1本持っておくと安心です。
麦茶
ノンカフェインでミネラルも含む麦茶は、登山中の水分補給にも向いています。ただし、腐敗しやすいため真夏の長時間行動では保冷対策が必要です。
カフェインを含む飲み物(コーヒー・緑茶・紅茶・エナジードリンクなど)は利尿作用があるため、登山中のメインの水分補給には不向きです。嗜好品として楽しむ分には問題ありませんが、水分補給は別途行いましょう。
水分と一緒に塩分・電解質も補給する
登山中に失われるのは水分だけではありません。汗には塩分(ナトリウム)やカリウムなどの電解質が含まれており、水だけを大量に飲むと体内の塩分濃度が薄まってしまいます。水分と塩分をセットで補うことが、長時間の行動を安全に続けるコツです。
汗の塩分濃度はおよそ0.3%とされ、100mLの汗で約300mgの塩分が失われる計算になります。行動時間が長いほど塩分の損失も大きくなるため、水だけでなく塩分を含む行動食を組み合わせるのが実用的です。
- 塩飴・塩タブレット:手軽に塩分をチャージできる定番の行動食
- 梅干し・昆布:塩分とミネラルを同時に摂れる和のおやつ
- ナッツ・ドライフルーツ:塩分とカリウム、エネルギーをまとめて補える
個包装の塩タブレットは、ザックの雨蓋やウエストポーチに分けて入れておけるので、歩きながらでも取り出せます。
塩分をとらないまま水だけを飲み続けると、体調を崩す一因になるとされています。特に汗を大量にかく夏山では、水と塩分のバランスを意識して補給しましょう。経口補水液は塩分と電解質が多めに設計されているため、暑い時期のエマージェンシー用として1本備えておくと安心です。
脱水や熱中症のサインを見逃さない
登山中は夢中で歩いていると、自分の体調変化に気づきにくいものです。以下のようなサインが出たら脱水が進んでいる可能性があるため、早めに休憩をとって水分と塩分を補ってください。
- 尿の色が濃くなる、量が減る
- 頭痛やめまい、立ちくらみを感じる
- 足がつる、こむら返りが起きる
- 体が重だるく、いつものペースで歩けない
特に足のつり(こむら返り)は水分と電解質の不足のサインとされることが多く、放置すると行動の継続が難しくなります。おかしいと感じたら無理をせず、日陰で休んでこまめに補給することが大切です。尿の色は水分状態を知る手軽な目安になるので、休憩のたびにチェックする習慣をつけるとよいでしょう。

水を軽くする工夫
水は1Lで1kgの重さがあるため、長時間の登山では大きな負担になります。以下の工夫で荷物を軽減できます。
- ルート上の水場を事前に確認する:山小屋や水場で補給できるなら、最初から全量を持つ必要はない
- 粉末のスポーツドリンクを活用:水場で水を補給し、粉末を溶かして飲めば荷物が軽くなる
- ハイドレーションシステムの利用:バックパックに装着する水筒システムで、歩きながらチューブから飲める。こまめな補給がしやすくなる
ハイドレーションは1.5〜2Lのリザーバーが日帰りから小屋泊まで使いやすいサイズです。ザックの背面ポケットに入るかどうかは、手持ちのバックパックの仕様も合わせて確認してみてください。
登山の水分補給に関するQ&A
Q. 冬山でも水分補給は必要?
冬山でも発汗は起こっており、さらに寒冷な空気は乾燥しているため、呼吸による水分の喪失も増えます。喉の渇きを感じにくい季節ですが、意識的に水分を摂ることが大切です。テルモス(保温ボトル)に温かい飲み物を入れて持参するのがおすすめです。
Q. 子どもの登山ではどれくらいの水が必要?
子どもも同じ計算式が使えます。体重30kgの子どもが4時間行動する場合、脱水量は30×4×5=600mL、補給量は約420〜480mLとなります。子どもは自分で水分管理が難しいため、大人が声をかけて定期的に飲ませるようにしましょう。
Q. スポーツドリンクだけで水分補給してもいい?
スポーツドリンクは電解質を補える一方で糖分も含まれるため、それだけで大量に飲むと糖分の摂りすぎになりがちです。水とスポーツドリンクを半々で持ち、水で喉を潤しつつスポーツドリンクで塩分を補うという使い分けが実用的です。長時間の行動では、この組み合わせが体への負担を抑えやすいとされています。
Q. 水場の水はそのまま飲んでも大丈夫?
日本の山の水場は比較的安全とされていますが、場所によっては動物の糞便や土壌中の細菌で汚染されている可能性があります。不安な場合は携帯浄水器を使うか、煮沸してから飲むのが安全です。ストロー型やボトル一体型の携帯浄水器は100g前後の製品もあり、水場を当てにするルートでは持っておくと選択肢が広がります。
Q. 水を飲みすぎるのもよくない?
塩分をとらずに水ばかり大量に飲むと、体内のナトリウム濃度が下がる「低ナトリウム血症」を起こすことがあります。長時間の行動では、水と塩分をセットで補うことを意識しましょう。喉の渇きに応じてこまめに、が基本です。
Q. テント泊や縦走ではどれくらい水を持てばいい?
テント泊では飲用に加えて、炊事や翌朝の分の水も必要になります。水場のない稜線でのテント泊なら、1人あたり2〜4Lを目安に持つケースが多いです。ルート上に水場があるかどうかで携行量が大きく変わるため、事前の情報収集が欠かせません。日帰りとは必要量が大きく変わる点に注意しましょう。
Q. 夏は水を凍らせて持っていくといい?
ペットボトルを半分ほど凍らせて持っていくと、行動中に少しずつ溶けて冷たい水を飲めます。全部凍らせると溶けるまで飲めないため、半分を凍らせて残り半分は常温の水を入れておくのがコツです。保冷しつつ、こまめに飲める状態を保てます。
登山の水分補給は「体重×行動時間×5」の計算式を基本にして、季節や条件に応じて調整するのが正しいアプローチです。出発前にしっかり計算して、安全な山歩きを楽しんでください。


